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マネージャー冥利
自称パリピな彼がスタジオに入ってきたのは3年前の年の暮れ。お役所関連の固めな仕事を辞めてきての入社でした。
このスタジオには年末から年始の2週間、スタッフがブーブーヒーヒー言う大掃除&メンテナンス作業があります。パリピな彼の採用が決まったのは12月。入社早々にいきなりそれでは大変だろうからと思い、僕は彼に入社時期を年明けの作業終了後にする?と聞きました。彼の答えは「いえ、早くスタートしたいのでやります」。
僕はやる気の頼もしい人が入ってくれたと嬉しく思ったものです。
やがて研修が明け、パリピな彼も他のスタッフ同様写真作品を提出するようになります。最初のころの彼の作品は、正直言って僕にはよくわかりませんでした。実験的にしか見えなかったのです。
でも、その頃スタジオにもよく来られる大御所フォトグラファー氏が彼の作品を見て「あれ、いいね~。オレにはない発想だわ。いいよ~。」と絶賛していたのです。今にして想えば、さすが業界の重鎮。眼力は僕の比ではありませんでした。
まあ、僕ですら1年後には彼の撮る作品が確信的にカッコいいことはわかりましたが。今さら、偉そうに言えることでもありません。
現在、スタジオ卒業を間近に控えたパリピな彼です。スタジオ後は、誰かのアシスタントに就くことなく、フォトグラファーとして一人でやっていく意向です。
でも、その彼の判断を聞いたとき、僕は少し心配になりました。
業界の一般論として、直アシに就けるなら就いておいた方が、クライアントを“0”から開拓しなくて済むのでその分の苦労から解放されるからです。もちろん、就く師匠によっても、仕事の分野によっても違いはありますが。
マネージャーの身勝手な親心として、同じ釜の飯を食った人の苦労を見るのはつらいものです。だから僕が直アシに就くという選択肢を誰にでもススメがちなのは否めません。
でも、先日、その心配を吹き消すことがありました。
パリピな彼のインスタを見た某編集部の方から、一度会いたいと連絡があり、彼はブックを持ってそのカッコいいファッション誌の編集部に行ってきたのです。そして、その場で18ページの撮影が決まり、彼はスタジオ退社前に、堂々フォトグラファーデビューを果たすこととなりました。
マネージャーの僕が何かをしたわけではありません。何も教えていないし、何も与えていません。ただ、彼が勝手に育っていっただけです。
それでも、我が子の成長を頼もしく思う気持ちと同じベクトルの感情が、僕の心を満たしてくれます。
マネージャー冥利。僕にとって、こんなに幸せな話はありません。
貪欲な僕は思います。
もっと、マネージャー冥利に満たされたい。
みんな、よろしくな!