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フリーダ・ニャーロ
【GWは、このサイトも開店休業状態。だから、ブログの趣旨は放っておいて僕が好きなラムバーについて。】
行きつけのbarのMさんは、若いころ小説家を目指していた。彼からはっきりそれを聞いたことはない。ただ、barのインスタの渋い画像と一緒にあがる彼のつぶやきには、言葉と格闘してきた人特有の洗練された心地よさがあるから僕が勝手にそう思っている。
僕はといえば、この歳になるまで読み書きはSNSで触れている程度。そんな僕が、最近「小説を読む」楽しさを覚えたのは同じ歳であるMさんの影響が大きい。それ以来、僕は店に行くたびに今読んでいる村上春樹を報告し、彼の反応を聞くことを楽しみにしている。
「田辺さん、これ、飲んだ憶えあります?」Mさんがボトルを僕に見せながら聞いてきた。そのラベルの絵のタッチはどこかで見た気がした。しかし、眉毛のつながった猫は記憶になかった。
「いえ、ラベルに見覚えないので、飲んだことないと思います。」
「じゃーこれ、いってみましょうか。」
先日の嵐の夜、貸し切り状態の彼の店で、僕はお任せの2杯目にバルバドス産の特別なラムを飲んだ。
「うわ。うまいですねー、これ。」僕は紛れもない酒好きだ。本当に美味い酒は、飲んだ瞬間全身にエネルギーがみなぎることでわかる。
「そりゃそうでしょ。」Mさんは舞い上がり始めた僕のテンションをよそに、さもありなんといった感じで答えた。
このラムバーに通うようになって5年。Shu Yamamotoが手掛ける猫になったフリーダ・カーロがラベルの酒は、僕がこれまで飲んだラムの中でも1,2を争うほど美味かった。アルコール度数こそ60度以上あるが、美味い酒はアルコール度数を感じさせない。猫のフリーダもご多分に漏れず僕は気付けば飲み干していた。
「これ、もう一杯いただけますか。」
「え、いいですけど高いですよ。味のわかるうちに飲まれた方がいいと思いますけど。」長い付き合いのMさんは僕の小遣い事情を気遣ってくれる。
「え?そんなに高いの?」僕は聞いた。
「いつも飲まれるやつの3杯分くらい。」
「はい。やめておきます。」僕は即答した。
高いだけあって美味い。さっきの「そりゃそうでしょ。」はそれだけの値段がするのだから当然という意味だった。
インターネットは資本主義を二極化させた。商品を最安値で手に入れることができるようになったのはあくまでも大衆的なものに限られる。最上のものはその希少価値からますます手の届かないものになっていく。
僕にとってこの酒は、酔った勢いで頼んでしまわないことにはなかなか手を出せないものだった。しかし、これはMさんも言う通り感覚がぼやけてしまう前のシラフな状態で味あわないともったない酒でもある。
猫のフリーダ・カーロ。僕にとっては悩ましき矛盾の酒。
まあ、とはいっても世の中にあるすべての矛盾は、配偶者との意思疎通を除けばラムを飲むことで何とかなるものだ。だから飲んじゃうけどね。