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コロナクライシス/スーパーレバー
12月17日、朝6:39。オレの携帯が鳴る。昨日まで連休だったスタッフAからのLINE電話。まだ、出勤までには時間がある。寝坊の連絡か?
「はい。もしもし。」
「あ、お早うございます。Aです。」
「おはよう。どーした?」
「田辺さん、すみません。朝からお腹の調子が悪くて、その、今もトイレの中なんですけど、、、、止まらなくて、熱も測ったら少しあって、、、」
「今日は無理か?」
「はい。申し訳ないんですけど、できたらお休み頂きたいです。」
「OK、わかった。コロナの可能性が無いワケではないから、ひとまず休んで様子を見よう。夕方また、電話をくれるか? 」
「はい、わかりま 」トゥルン。
この1本のLINE電話が、その後スタジオを震撼させる大事件の序章だった。その時のオレはまだ知る由もないが。
同日、その日の夕刻。Aからの電話。
「今日、病院に行ってきました。ただの食あたりって言われました。」
「体調はどう?」
「まだお腹は痛くて、熱も少しあります。」
「じゃー、明日も念のため休もうか。明後日はスタジオが休みだから、次は20日だな。19日の体調をみて、出られそうなら出ようか?」
「はい、わかりました。あと、すみません、田辺さん。朝の電話、途中で切ってしまって。」
「え?そーだっけ?ま、OK、全然気にしてない。」
「突然、出るって思って、間に合わないって思って切ってしまいました。」
「?覚えていないしOK。」
12月19日、16:47。電話口のAが明日は頑張れそうだと言う。彼女が身体の不調を訴えてから3日、熱も高い訳ではなく、医者からも食あたりと言われているからコロナの心配はなさそうだ。ただし、念のため明日はお客様の前に出ないシフトにしておく。
12月20日、昼前。休みのオレにスタジオから電話がきた。
「田辺さん、Bです。あのAなんですけど、先ほどから悪寒がして、体の節々が痛いと言っていて、熱もあるみたいなんですけど、帰していいですか?」
「マジか!ちょうどスタジオの近くにいるから、そっち行くわ。ちょっと待たせておいて。」
イヤな予感とともにオレがスタジオに行くと、Aは熱っぽく腫れた顔でけだるそうに座り込んでいる。熱は37.8度。
「ひとまず帰ろうか! で、ネットで新型コロナの相談窓口の電話番号を調べて、相談して、その指示に従って! はい、お疲れ!」
彼女を帰し、彼女のいたスタッフルームのあらゆるところをアルコール消毒、その日出社していたスタッフには手を洗わせ、しつこいくらいに感染への注意を促した。
12月21日、10:53。彼女は相談センターが紹介してくれた新型コロナに対応する病院に行く。検査後、オレに電話をかけてきた
「田辺さん、今、検査受けてきまして、インフルは陰性になりました。PCRは結果が明日の夕方になるそうです。」
「OK、わかった。体調はどう?」
「まだ、つらいです。熱もあります。」
「そうか。ひとまず、家でゆっくり休んで。明日、結果が出たら教えて。」
「はい。わかりました。」
インフルエンザは新型コロナと症状が似ているという。だから、この冬はインフルにも罹らないよう注意が必要だと聞いていた。
Aはここ数日熱が下がらず、体の節々が痛いと言っていた。しかし、検査の結果インフルの可能性は消えた。すると、残すところは、、、、。
それでも、今回、幸いだったのは、彼女がスタジオに来られるお客様とは接触していないことだ。しかも、食あたりで休んでいたので、同僚スタッフともここ数日ほとんど接触していない。
自慢じゃないが、このスタジオの感染対策は徹底しているので、もし彼女が陽性だったとしても、他の人に感染が広がる可能性は少ないはずだ。
オレは、仮にAが陽性だった場合、起こりえることを想像し、あらゆることへの対策を練った。彼女への給与保証やフォロー。お客様への告知。スタッフへの説明。上への報告。
12月22日、17:23。AからのLINE電話が鳴る。
「もし、もし、どーだった?」
「あ、田辺さん、お疲れ様です。今、病院から連絡がありまして、私、“陰性”でした!」
「おー!良かった!ホント良かった!!」
「はい!良かったです! 先生が言っていました。たぶん、スーパーで買った生レバーを火を通さず食べて食あたりになり、それで体が弱っていたから風邪をこじらせたんだろうって。でも、陰性で良かったです~!!」
「え?ちょっと待って。スーパーで買った生レバーって豚とかの生のレバー?」
「はい。私、レバ刺し食べたくて、でも、それが良くなかったみたいでー。」
「えー!?あの赤黒い生のレバーを食べちゃったの?」
「はい。もう、二度とスーパーのレバ刺しは食べません。」
「いや、いや、それ、レバ刺しじゃないから……」
2020年も残すところ、10日あまり。
今年もいろいろあったが、来年もオレは奇想天外なことに振り回されることだろう。
いや、今年はまだ10日も残っている。
まだまだ信じられないことが予期せずスタッフからもたらされることは間違いない。オレに油断しているヒマなどない。
スタジオマネージャーはこれだからやめられないのだ。
(これは限りなくノンフィクションに近いフィクションです。)