• コラム

仕事を慣れるな

「一日も早く仕事に慣れ、戦力となれますように頑張ってまいります・・・」

 

入社初日の新入社員の挨拶言葉。ネット検索すれば多くの例文が出てくるので、この春、新しい配属先でこんな挨拶をする方もいると思います。

 

でもこれ、終身雇用って制度が生きていた頃の挨拶です。公務員の方ならまだしも、自分の理想の姿を求めてより高いステージへ行くためにひとまずスタジオマンに身をやつしている者が言うべき言葉ではありません。

 

もちろん、そんな深い意味なんて考えずに当たりさわりない挨拶をしただけってことはわかっていますけど。

ところで、「2対6対2の法則」という言葉をご存知でしょうか?

 

ビジネスやチームスポーツにおける組織論で語られる言葉で、一部を省略して「2対8の法則」とも言われています。

 

別名「働きアリの法則」ともいわれるこれ、アリも人間もチームで行動するとなぜか「そのうちの2割はよく働き、6割は普通に働き、残りの2割は怠ける」ようになることから言われるものです。

 

不思議なのは、アリでも人間でもチームにとって必要ないと思える「怠ける2割」を取り除いても、残ったメンバーの中で「2対6対2」ができること。また、「よく働く2割」だけや「怠ける2割」だけを抽出してチームを構成してみても、同様に2対6対2ができる。

 

何億年も前から生存戦略として群れることを選択してきた生き物は、遺伝子レベルで自分のポジションを悟りそこに納まるようにできているのかもしれません。

で、冒頭の話に戻るのですが、一口に「仕事を覚える」と言っても、そこには「仕事に慣れる」と「仕事が出来るようになる」二つの意味合いが含まれます。

 

「仕事に慣れる」とは、作業や職場や仕事そのものに慣れること。「出来るようになる」とは、知識や技術・考え方を身につけ自ら行動しその結果に責任を持てるようになること。

 

よく働く2割は自ら進んで「出来る」ようになります。すると残りのその他大勢は、「慣れる」だけでチームの調和がとれるので、そこに落ち着きます

 

チームは「慣れる」だけの人がいないと回りませんから、その方々だって必要不可欠な存在であることに変わりはありません。それを言ったら怠ける2割の人だって「働きアリの法則」的に必要不可欠な存在です。

でも、そこに勘違いが起こるのです。

 

「出来る」人がそろそろ自分も一人前と思うようになる頃、多くの「慣れる」だけの人も一人前になったと思い込みます。自分が居なければチームの調和が崩れるので、そう思い込んでしまうのは仕方のないことかもしれません。

 

終身雇用の組織なら内部で調整されるので何ら問題はありません。でも、独立やステップアップを図って転職した場合、その職場に「慣れた」だけの人が外で通用できないことは、火を見るよりも明らかです。

 

新入社員が一刻も早く仕事に慣れ、緊張から解き放たれたいという気持ちはわかります。でも、仕事に「慣れる」って、当人が気持ち的に楽になるってこと以外、何のメリットもないのです。

 

スタジオマンを10年やれば、そのスタジオ安定の生き字引として貴重な存在になれることは間違いありません。でも、その方がカメラマンになれるかどうかは、また別の話。

 

僕のいるスタジオの新入社員は、「慣れる」ことではなく「出来る」ことを目指して頑張ってねというお話です。

 

 

文:田辺 政一  え:きよた ちひろ

コラム一覧に戻る