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自信について

◎あるカメラマンの話

 

先日、昔から知っている超人気フォトグラファーと飲みに行った際に、ふと聞いてみました。「○○ちゃんってさ、いつ頃からカメラマンとして自信持てるようになったの?」

ここ10年以上、業界では知らない人がいないほど売れ続けている彼です。「実は最初からありました」とか、「デビューした頃っすかね」とか、「□□の表紙をやった時」とか、「△△(大きなクライアントの撮影)やってから」とか、どのあたりからフォトグラファーとしての自分に自信を持てるようになったのか聞きたかったのです。

でも、答えは意外なものでした。

 

「え?自信なんかないっすよ。いつも必死っすよ(笑)。」

 

後日、その話をスタッフにしたら「えー、○○さんがそんなこと言ってたんですか?」と誰もが驚きます。スタジオスタッフから見れば、撮影する彼は自信満々にカッコいい写真を撮りまくる凄い人というイメージだからです。

 

常に不安に駆られているからこそ、自分におごることなく10年以上も第一線で活躍できているのだと納得しました。

◎スタッフの決意

 

スタッフのAくんが日報の「あなた自身の声」欄にこんなことを書いていました。

 

『これからスタジオにメイン(ファースト・親方役)として入るためには、もっと自分に自信をもたなくてはならない。そのために日々スキルアップを図った行動を心がけていこうと思う。』

 

上に立つ者として、頼りがいある者になるためにも、自信を持って下に指導できるようにならなければならないという決意の表明です。マネージャーの僕としては、その彼の心意気を応援してあげるべきなのかもしれません。

 

でも、こういった考え方を述べて、その後本当に自信を持つに至った人を僕はこれまで見たことがありません。だから素直に応援する気にはなれず、様子見しています。

◎井上尚弥さん

 

先日のWBSSで世界一となった井上尚弥さん。今、日本で最も注目されるプロボクサーです。その彼が、ノニト・ドネア戦の前にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出ていました。

 

(ちなみに、僕のいるスタジオも数秒間出ていました。撮影に来られた時の生の井上さんが超カッコ良かった!)

 

番組の中で井上さんが何度も口にしていた言葉があります。世間からは「天才」や「怪物(モンスター)」と言われる井上さんですが、実はもの凄い質と量のトレーニングを積み重ねている方でした。インタビュアーがなぜそれ程までにトレーニングをするのか?それ程までに自分を追い込むのか?と聞かれる度、彼の答えは「不安だから」でした。

普通の人は、まず初めに失敗して凹んだり引きずったりすることは避けたいと考えます。でも、自分にはまだ上手くやれる確信が持てない。その結果、確信には近づかず、距離をおいた安全な場所でウロウロするのです。

 

自分が傷付かずに上手に出来るようになりたいと考える限り、いつまで経っても自信を持てるような実績をつくることは難しいのが現実です。

 

すごい実績を積み重ねている方ほど、事前の準備を怠りません。考えられる限りのことを想定して準備をしています。

 

だから、本番にはベストの状態で挑むことができます。仮にそこまでしても結果が芳しくなかったなら、それは自分の想像力や事前準備が甘かったからということです。実績を積み重ねている方は瞬時にその事実を受け入れ、それを二度と同じ過ちを犯さないための学びに変換します。

 

その意味で、落ち込んだり、引きずったりすることにメリットは皆無なので、凹む時間はムダ以外の何物でもないのです。人の目には、そんな姿が常に自信を持っている人に映るのかもしれません。

 

自信を持てない人は「結果」に向き合うことに不安を感じます。実績を積む人は事前準備もせずに本番に挑むことに不安を感じます。

 

自信とは、真剣勝負の結果がどうあれ、それを受け入れる覚悟と、勝ち取るまでは諦めない気持ちがあってはじめて湧いてくるものだと思うのです。

 

 

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