• コラム

混沌の中に熱狂を見る冷徹な目

 先日、たまに顔を出す飲み屋さんに行った時のことです。僕もよく知る店の主人は、カウンターに座る20代後半くらいのお客さんと話をしている最中でした。

店に入ってきた僕を見た主人は、「あ、田辺くん、いらっしゃい! ちょうど良かった。この人、そこの〇〇隊の人なんだけど、自分で買ったカメラが使えなくて困ってるんだって。話、聞いてあげてよ。」店の主人は、昔からこうやって知らない客同士をくっつける人なのです。

 

で、紹介されたのは20代後半くらいの体育会系な感じの快活そうな方でした。その方が所属する〇〇隊の宿舎が徒歩10分くらいのところにあり、その日はそこから来たのだそうです。

 

その方の話を聞くと買ったばかりのカメラの機能がわからないということだったので、僕は「今、そのカメラはお持ちですか?触りながらのほうがわかりやすいと思うのですが、、、」と言いました。彼はニコっとすると「ちょっと待ってください。」と言い、携帯をとり出しどこかに電話を掛けはじめました。

 

「おー、□□か?オレだ。オレの机にカメラがあるだろ。今からちょっと持ってきてくれるか?前に来た店だから場所はわかるだろ?よろしく、じゃーな。あー、ちょっと待て、人をお待たせしているから走って来い。何分で来れる?10分?じゃー5分で来い。じゃーな。」

 

電話の様子から、同じ宿舎に泊まる後輩のようでした。結局、その後輩さんは10分ほどで現れ、本当にカメラを持ってきてくれました。

 

カウンターに座る先輩(と思われる方)と同じ雰囲気の明るく爽やかな感じの方で、とても怖い先輩のパシリをさせられているという感じには見えません。二人の関係を見て僕は、〇〇隊ってこういう組織なんだなーとしみじみ思いました。

 

上下関係が厳しくて、先輩の言うことにはいつでも絶対に服従。そうすることで組織の統制が取れている。

 

〇〇隊は軍隊どころか防衛省の管轄下ですらありませんが、この種の任務に当たる方々をまとめるには必要な統制方法なのかもしれません。特に現場の最前線を受け持つ若い方々ならなお更だと思います。

僕は軍隊を経験していないのでわかりませんが、一般的にいわれる「軍隊的」ってこういうことなのだろうと思います。でも、それなら、僕のいるスタジオは、まったく軍隊的ではありません。

 

確かに、仕事へのこだわりやクオリティは徹底的に厳しく高いところを目指しているつもりです。ただし、仕事へのモチベーションは、スタッフ個人個人に帰す問題です。誰かが強圧的にやらせたところで、その人の写真や仕事に対する意識が高くなるわけではありません。

個々が高めるべき意識は、当人が気付いていくことでのみ高めることが可能です。周りの者たちにできることと言えば、事あるごとに様々なアプローチでその気付きを本人に促すくらいです。

 

スタジオにとって何よりも大切なことは、組織としての統制などではありません。

何もわかっていない方だけが、スタジオを軍隊と言います。わかりかけてきた新人がどうやらそれは違うということに気付き始めます。

 

そして、このスタジオを踏み台に羽ばたいていった人だけが、混沌の中に熱狂を見る冷徹な目を知るのです。

 新人のみんなには、軍隊だとか、なんだとかという次元を越えて、早くこちら側に来てねって言いたいです。話したいことはまだまだいっぱいありますが、今日はこのくらいで。敬礼! 

 

 

コラム一覧に戻る