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世の中はオッサンより中学生が正しいほうが良くなる

ラーメン屋さん原理とスーパーカー理論

行ったことのないラーメン屋さんに行列ができているのを見ると、美味そうだから今度食べてみようと思う。これまで何度かその行列にダマされたことはあったけど、だからといって閑古鳥の泣く店に入る気にはならない。

 

それと同じ原理。あのフォトグラファーは普通では買えないような高級車に乗っているから、すごく売れているのだろう。売れているってことは間違いないってことだから、あの人に撮影の依頼をしてみようと考えるクライアントさんは多い。

 

つい先日、某大御所が自分の弟子だったフォトグラファーがプリウスを買ったことを嘆いていたと聞いた。フォトグラファーたるもの、無理してでもメルセデスに乗って羽振りがいい風を装わなければならないという理屈だった。

 

ところで、以前、知り合いのフォトグラファーに超高級スーパーカーを乗り回す人がいた。当時、彼は自分がそういった車に乗るのは「これからカメラマンを目指す若いやつらに夢を持たせたいから」と語っていた。スーパーカーブーム世代の僕は「すごいなー」と素直に感心しつつ、彼の言葉の意味はよくわからなかった。

中学生のやりがい

13歳のハローワーク」というサイトがある。中学生向けにさまざまな仕事をわかりやすく説明するとても良いサイトだ。そのサイトが年に一度、中学生からのアクセス数やユーザー数から人気職業ランキングを集計、発表している。

 

数年前に見たとき、「カメラマン(フォトグラファー)」は100位すれすれだった。これも時代の流れかと、さびしく思ったことを覚えている。それが、久しぶりに覗いてみたら2022年は30位!!、アナウンサー(41位)や小学校の先生(35位)より上だった。もちろん、ここ何年か1位はず~っとユーチューバー。

 

でも、「カメラマン」のランキングが格段に上がったのはなぜか? 僕はサイトの中にその答えを見つけた。

 

サイトにはそれぞれの職種ごとに「先輩インタビュー」ページがある。「カメラマン」も何人かの現役と思われる方が仕事の内容や苦労、どうやってなったかなどに答えている。その先輩の答える「やりがい」が、中学生に響いたのだ。

 

この数年の間に掲載された「先輩インタビュー」で、どの先輩も口をそろえて言う「やりがい」は、「いろいろな人に出会えること」、「自分の写真で人が喜んでくれること」。タイミング的に、この数年での70ポイントのランクアップに合致する。このやりがいが、今の中学生の共感を呼び、この職種に興味を持つ人が増えたと考えられる。

今、オッサンに求められること

酸いも甘いも知り尽くしたオッサンは言うかもしれない。所詮、中学生。本当にユーチューバーでやっていける人はごくわずかという現実と同じで、世の中のことをまだわかっていないだけだと。

 

では、オッサンだったらこの「やりがい」はどう言うのか?

 

「やりがい?」

 

「カメラマンになって嬉しかったこと?」

 

「うーん。」と考えるような素振りをして、待っていたかのように「ああ、」と言って語り出す?

 

 

「あれは、跳ね馬のエキゾーストノートを背中に感じ流していた夜だったな。たしか外苑西の西麻布を過ぎた辺り……。通りのショーウインドウにイタリアンレッドとそれを操るオレの姿が映っていた。その瞬間(とき)かな、カメラマンになって良かったと思ったのは。」

 

 

これでは、今どきの中学生には絶対に響かない。と、いうか引く。間違いなくカメラマンという職業の人気ランキングはランク外。いずれ未来を担う中学生はこの職業の存在自体を知らず、その結果業界への流入人口は減り、本当の意味で先細っていく。

 

成功した人が自己実現のあかしを手に入れたくなる気持ちはすごくわかる。それが自分の更なる頑張りとなれるのだから無くてはならないものだ。

 

ただ、ピークを過ぎたオッサンは、自分を育んでくれた土壌に感謝し、その土壌をより良きものにするために、自分の持てるリソースを許せる限り回すべきだと思う。

 

そして、できれば今の若い人に通じる言葉で、「いろいろな人との出会い」や「自分の写真で人が喜んでくれること」の素晴らしさを言いふらして欲しい。

 

昔乗っていた跳ね馬のエンブレムを愛でるより、あの人のおかげで今の自分があると言ってくれる若い人がいてくれたほうが、幸せな余生を送れると思うけど、どうだろう?

 

 

 

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