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マネージャー

 撮影中のスタジオのスタッフから、カメラマンさまにご迷惑をかけてしまったとの一報がきた。僕は緊急性がないことを確認した上で、速やかなお詫びと対処及びフォローをマネージャーのAさんと確認し、撮影終了後事情を聞くためにそのスタッフを僕のところに呼んだ。

 

彼は「スタジオワークを急ぐあまり」注意を怠ってしまったと言い反省している様子だった。僕は、その「お客様を想って急いでいた上でのミスなのだから仕方ない」的メッセージを暗に含ませつつ、「でも反省しているんですよ、田辺さん。」ポーズを取っている彼に、どう伝えればわかってもらえるか、彼の話を聞きながら考えていた。

 

こんな言い訳が有効だと信じ、真顔で主張するスタッフに、「それじゃーダメ。」ということをわからせなければならない。

 

彼の事情説明が終わるのを待って、僕は「怒り」感情モードのギアを1段上げ(6段変速)、彼に話しかける。その時の状況と彼の雰囲気や日頃の人となりなどを考え、1段が適切だろうと考えたからだ。

 

「将来自分がプロになっても、致し方ない事情で、せっかく頂いた仕事がうまくいきませんでした。って言う?」僕がそう聞くと、彼は「……いえ。」。僕はすかさず「そうだよね。それじゃー素人だよね。」「はい。」・・・・・。

 

このようなやり取りを繰り返す中で、「仕事とは責任を取ること」ということをスタッフの胸にストンと落ちるよう促していく。頭で理解できても、心がそれを納得しなければ、彼はいつまでも失敗を活かすことなくクソみたいな言い訳を垂れ、反省ポーズを取り続けるだろうから。

 

でも、実際、僕の目の前で心にストンと落ちて、その日を境にプロの自覚に目覚めるスタッフなど、まずはいない。大半のスタッフにとって、僕は細かいことをグチグチ言う面倒臭せーおっさんでしかないのだ。僕の知らないところで、先輩スタッフから後輩へ、田辺のおっさんの上手なあしらい方が教え継がれていることは想像に難くない。

こんなことをこれまでず〜っと繰り返してきた。フォトグラファーを目指すスタッフは、知識やスキルを身につけることももちろん重要だ。しかし、何より大切なことはこの道で生きていく「自覚」や「覚悟」への「気付き」だと信じるからだ。

 

僕も来年の頭には、スタジオマネージャー歴25年となる。四半世紀という時間も、過ぎてみればあっという間だった。

 

自分としては一日一日を思いつく限り精一杯やってきたつもりだし、他にやりようもなかった。それでも、代わり映えせずスタッフをつかまえては、グチグチ言っている自分って何なんだと思ってしまう。

そんなことが頭の中をよぎっていた日の午後、数年前に突然辞めて以来だった元スタッフが訪ねてきた。数日前、突然彼女から電話が掛かってきて、会って話したいことがあると言ってきたのだ。

 

あいさつもそこそこに彼女は話しだした。

「私、当時はホント自分の事しか考えていなかったってことに辞めてから気付きました。それですごい迷惑をかけた田辺さんにお詫びとお礼を言いたくて、今日来たんです。一人で考えてみたら、私はなんて自分勝手なんだろうって。責任感なんてこれっぽっちもないのに、仕事できるつもりでいた自分が恥ずかしくて、私って最低だって思ったんです。それで、人って一人では生きられない。周りの人に活かされて初めて生きていけるってわかったんです。だから、自分もまずは人のお役に立てることを考えていかなければって。」

 

そう気づき、彼女は2年前にフォトグラファーとして独り立ちした。とはいうものの当初は撮影だけで食べてはいけず、バイトで食いつないでいたという。そして今年に入って、やっとバイトをせずともフォトグラファーだけで食べていけるようになったそうだ。

 今、彼女の仕事が充実しているだろうことは、話し方や雰囲気を見てわかった。主観的な話だが、以前に比べ彼女の顔のバランスがいい。スタジオにいた頃はバラバラだった。

 

彼女が最後にこんなことを教えてくれた。

 

僕はまったく憶えていなかったが、数年前、彼女がスタジオを辞める日、僕は彼女にこう言ったという。

 

「今はわかんないと思うけど、仕事ってゆうのは、相手の意図を汲んで、任されたこと全てに責任を持つことなの。そのうちわかると思うよ!頑張れよ!」

 

そして彼女は気付き、こうやって戻ってきてくれて、わざわざお礼まで言いに来てくれた。

 

僕はこれからもずっと、代わり映えすることなくグチグチ言い続けていくのだと思う。

 

 

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