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ガクチカ
てっきり学校の近くに住んでいて通学が便利なことかと思いました。または学校の近くのバイト先のことかと。
就活する学生の方の間に定着している言葉で「ガクチカ」なるものがあるそうです。それは「学生時代に力を入れていたこと」の略語。なんでも、企業面接では必ずと言っていいほど訊かれる質問とのこと。
「ガクチカ」をググると、いくつもの人材会社のサイトがその言葉の意味を説明しています。そしてもれなく、その対処法がとても丁寧に解説されています。
企業からすれば、この「ガクチカ」を通して得られる情報が選考に欠かせないものだからこそ、多くの企業が設問しているのだと思います。でも、学生側の対処法がここまで出回ってしまうと、その設問が企業の狙い通りに機能しているのかはけっこう微妙です。
ちなみに、僕はスタジオの採用面接で「ガクチカ」なるものを一度も聞いたことがありません。まったく興味がないので、これからも聞くことはありません。
だって、写真でメシ食っていきたいとか、自己表現を仕事にしていきたいとか、自分は表現せずには生きていけないなんて人種は、みんな心のどこかがくすぶっているか、もやもやしています。僕が知りたいのは、そのくすぶりモヤモヤしているもの自体のエネルギーの強さや大きさです。採用試験用に言語化したエピソードではありません。
そもそも、「明朗快活で成績優秀で真面目で面倒見が良くてコミュニケーション能力に長けていて、みんなの人気者」なんて人は、「表現」の世界に生きようとは考えません。仮にそんな人がスタジオの面接に来たら、僕はその人の中に何か闇でもあるのかと勘ぐってしまいます。
以前、学校にはロクに行かず、バーでバイトしていて、バイトなのに雇われ店長を任されていたって人がスタジオの面接にきました。なんでも、バーのカウンターにいたら、カメラマンになろうと思ったということで。
その彼の「ガクチカ」って「バーでのバイト」だったわけです。一般的な企業の採用試験なら、隠すべきネタかもしれません。仮にバイトの目的やそこから何を学べたかを説得力もって書ければ、もしかしたら企業の採用担当者はそれを評価してくれるかもしれません。でも、リスクを負ってまで書くには、かなりの勝算が必要です。
もちろん、僕が彼を採用させて頂いた決め手はそのエピソードだけではありません。でも、入社後は誰もが一目置くほどの働きっぷり。その勢いのまま、今はフォトグラファーとして高収入大活躍大人気の日々を送っています。
僕はあの時、彼のくすぶりに共感をおぼえ、もやの中に秘めた強いエネルギーを感じました。
スティーブ・ジョブズが、こんな言葉を残しています。
you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards.
『未来を見て点を結ぶことはできない。 過去を振り返って点を結ぶだけだ。 だから、いつかどうにかして点は結ばれると信じなければならない。』
今、この瞬間を自分に対しどれだけ真剣に生きるか。そして、将来の自分の姿をどれだけ強く明確に望むか。この世界で生きていく人間なら、それで充分だと思うのです。