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言いたいことは作品の中にある
「作品見せられて、どういうふうに撮ったかなんて説明されても、自分は写真が下手クソですって言ってるようなもんだよ。」
スタッフのKくんがあるフォトグラファーのロケに行って、言われた言葉だそうです。そのフォトグラファーにしてみれば、Kくんがあまりにも小さいところで凝り固まった考え方をしているのを見かねて言ってくれたのだと思います。
確かにその通りです。作者にとっては制作上こだわりぬいた技術もテクニックも工夫の仕方も、見る側にとってはまったく関係のないどーだっていいことです。
写真を人に見せるにあたって、言葉による解説が必要な方がいるのは確かです。プロは、そういった方のために明快で説得力のある言葉を用意しておく必要があります。
でも、実のところ、言葉で語りきれるものなら詩や小説で充分です。文学では語りきれないヴィジョンがあるから写真なんです。
それでも、アートだって、音楽だって、映画だって、創った側は営業上必要なら言葉で説明します。インタビュアーの「今回の作品はどのようなことを表現されたかったのでしょう?」って質問に、「見ろよ、聴けよ、感じろよ、それが答えだ。」と、突っぱねるわけにはいきません。
ある写真系の大学の生徒さんは、ご自分の作品を見せている間、ずーっとその作品の解説を話し続けていました。学校の先生が、作品を撮るにあたりその主題を選んだ理由から、それをどう捉えたかを生徒に語らせることを常としているのだそうです。
僕の知っている建築デザイナーは、国際的にも評価されている、素晴らしいセンスの持ち主です。でも、クライアントのほとんどが、そのセンス自体にではなく彼のこれまでの実績と評判にお金を出す以上、クライアントを納得させるための、みょうちくりんなポエムでイメージの説明をします。
もちろん、プロを目指すなら、解説など必要ないほど作品それ自体の完成度を上げるのは当然です。それでもあえて語るのは、自己表現やプロとしてのプライドの部分ではなく、営業上の事情です。
ところで、行列が大嫌いな僕ですが、超行列必至の話題の絵画展が開催されている美術館は、それほど嫌いではありません。なぜなら、行列をつくる人のほとんどは「閉館30分前」のアナウンスを聞いた途端に、帰路につく人達ばかりだからです。
閉館15分前にもなると、それまでの混雑がウソのように解消され、お気に入りの絵を好きな距離からのんびり見ることができます。閉館前のアナウンスを待ってましたとばかりに帰る方々が美術館に来る目的は、僕とは大きく違うようです。
あなたがプロやアーティストを目指すなら、当然こちら側の人間にならなくては話になりません。ただし、こちら側の人間は大混雑だった美術館がガラガラになるほど少数派です。
だから、こちら側とあちら側をつなぐ言葉の架け橋なくして、圧倒的多数派の気をこちら側に留めることはできないのです。
冒頭のKくん、よりによってプロとして二十年以上一線で活躍され続けているフォトグラファーに、自分の写真を説明してしまったのかもしれません。Kくんはまだ、完全にこちらに来れてはいないのでしょう。
あちら側と、こちら側。
お後がよろしいようで……