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早期退社
彼がスタジオの面接に来たとき、採るべきかどうか、僕は正直悩みました。ほんの一瞬ですけど。
面接やその時見せてもらった作品を通して、彼が将来、しかも近い将来、間違いなくカメラマンとしてやっていくだろうとは思いました。だからこそ、このスタジオの入社時のルール「最低でも2年はスタジオに居るって約束してね」よりも短い期間で「辞めます」って言ってくるだろうことが想像に難くなかったからです。
企業の利益を追求するべきスタジオマネージャーとしては、スタッフがスタジオアシスタントとしてのスキルと経験値を身につけたあとこそが重要です。スタッフが一人前になれば先行投資を回収できますし、その収穫期を長くできればできるほど、会社に利益をもたらすわけですから。
このスタジオに限らずスタジオスタッフを抱える撮影スタジオさんなら、どこも長く居てくれるスタッフを待遇面で優遇する仕組みを作っています。それで収穫期が長くなってくれるなら、待遇の優遇なんて安いものなのです。
そんなことがマネージャーの僕の頭の中をよぎること3秒、「はい、採用っ!」って決めました。
このスタジオはどこよりも高いカメラマン輩出率を誇ることを標ぼうするスタジオですから。しかも僅差ではなく、ダントツで。
現役のスタッフのみんなにとっては、身近な同僚がカメラマンをなっていく姿をみて「自分も負けていられない」という良い刺激になるでしょうし。もちろん、カメラマンの成り方はカメラマンの数だけあるので、自分自身のやり方を焦ることなくしっかり地に足を付けてまい進していかなければなりませんが。
そんなこんなで彼の退社日が決まりました。寂しいけど仕方ありません。採用面接のあの日からこうなることはわかっていたわけですし。
それにね、外苑スタジオのスタッフやっている合間にこんな仕事(撮影)しているのですから、「もう辞めます!」と言われたら、「へい、喜んで!」って言うしかないじゃないですか。
ラフォーレ原宿。今月から1年間、展開される2023-2024ビジュアルは彼の撮影によるものです。お近くに行かれた際は見てみてください。
文:田辺 政一 え:きよた ちひろ