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創造的マネジメント

50過ぎたおっさんマネージャーのボヤキ。そんなもの誰が読むのかと自問自答しました。当然、誰も読まないので誰はばかることなくボヤかせて頂くことにします!

 

電気自動車テスラのCEO、最近はTwitterCEOで有名なイーロンマスク氏が、これまたCEOを務めるスペースXという航空宇宙企業があります。そこが自社で打ち上げた人工衛星を使って地球上のどこでも高速でインターネットが使える送受信アンテナを提供するサービス「スターリンク」が日本でも始まりました。

 

その送受信アンテナを日本人技術者が分解してみたというレポート記事を読みました。世界初のサービスですから、さぞ革新的な技術が投入されていると思いきや、分解した技術者の感想は既存の技術の寄せ集めとのこと。技術的にはそんなに大したことないのだそうです。

 

それで思い出しましたが、電気自動車のテスラも最初のころはコンセプトこそ斬新でしたが、パワーウインドウのスイッチ類はどこかの日本車メーカーにも付いているような見慣れたそれで、いかにも寄せ集め感がありました。

 

でも、マネージャー的にはそこにイーロンマスク氏の凄みをみるのです。

 

そして、今のこの国がイマイチパッとしない要因の一つだとも思いました。

 

彼はこれまでも技術的・経営的な勝算を見い出しては、夢のようなプロジェクトを数々実現してきました。そのためのマネジメントは「実現」その一点のためだけに考えうるすべての要素を大胆に最適化するものでした。

 

実現のためならば、他の企業や団体に所属している人に夢を語り、高額の報酬を用意して引き抜く。新旧にこだわることなく技術でも部品でも使えるものは何でも取り入れる。とにかく実現ただその一点のためだけにマネジメントし、壮大なプロジェクトを本当に実現させる。

 

テスラはその後、販売台数を伸ばし、株価も上がり、パワーウインドウのスイッチは独自の洗練されたデザインのものに替わっています。

 

 

片や我がクニ。官民挙げたビックプロジェクトがありました。YS-11というプロペラ旅客機開発以来60年ぶりの完全国産旅客機の開発プロジェクトです。それが初案から20年ほどの歳月を経て、先日撤退することが発表されました。

 

それを報じたメディアの記事を読み漁りましたが、どこも「技術不足」とか「経験不足」がその原因だったと報じています。でも、そんなことはプロジェクト発足当初からわかっていたことです。何を今さらって思う人がメディアにいないことが、僕は不思議でなりません。(当然、大人の事情があるのでしょうが省略)

 

この失敗のすべてはマネジメントです。

 

60年ぶりの開発ということは、すでに現役世代の日本人が誰も経験したことのない暗中模索のマネジメントだったわけです。だから当然必要なマネジメント的アプローチは、運営管理マネジメントではなく創造的マネジメントだったのです。

 

誰も経験したことのないものを生み出すにはある意味狂気じみた情熱と、何ものにも縛られない創造性、周りを魅了しその気にさせて巻き込むコミュニケーション力と人望。それらを兼ね備えた人がリーダーとなり、完成させるという1点に向けて全精力を集中させなければできません。

 

そして、プロジェクトは大きければ大きいほど必ず組織内にその実現を阻害する勢力がもっともらしい理屈で足を引っ張るので、そのリーダーの意思決定を常に尊重する屈強な後ろ盾となる最高意思決定者の存在も必要でした。

 

その点、イーロンマスク氏はCEOであり筆頭株主だったので一人二役の絶対権力者です。

 

もちろん、日本がダメだという話ではありませんし、絶対権力者でなければ出来ないというつもりもありません。同じ航空機に関していえば、F1で有名な自動車メーカーは機体のサイズこそ違いますが、高性能ジェット機の開発に成功、世界的な航空機メーカーとしての地位を確実なものにしています。

 

でも、官民挙げて頓挫したビッグプロジェクトの開発費は当初1500億円程度と見込まれていました。それが、立ち返ることのできないまま1兆円にまで膨らんでしまったそうです。撤退を決めた当事者からすれば、ここまでやってダメだったのだから国や産業のためを考え、撤退という決断を断腸の思いで下したという美談なのかもしれません。

 

マネージャーの僕にしてみれば、1兆円もの損失を出せるほど超巨大な企業のリーダーシップがそんな体たらく状態であることに、この国の病をみるのです。

 

と、ここまで書いていたら「田辺さん、大変です」とスタッフが血相を変えてすっ飛んできました。

 

「3階のトイレが詰まってあふれそうです!」このスタッフは優秀です。トイレ詰りの対処においては右に出るものがいないこの僕に、真っ先に報告してきた彼の判断は称賛に値します。

 

「よっしゃ!トイレのシュポシュポとバケツ持ってきて!」僕は素早くそのスタッフに指示を出し、階段を駆け上がりました。

 

ダースベーダーみたいな黒いゴムのシュポシュポの使い方にはコツがあり、それを知らないと大惨事になってしまう恐れがあるのです。僕がやれば、周りを汚すことなく一発必中で詰りを解消できますから。

 

吹けば飛ぶような小さな会社の管理マネジメントに日々ヒーヒー言ってるおっさんのボヤキなのでした。

 

 

 

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