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売れる視点
プロローグ
「写真が上手い人が必ずしも売れるわけではないからね」
フォトグラファーがこう口にするのを何度か耳にしました。何人もが言うということは、この業界の現実としてそれは太く大きく横たわっているのかもしれません。ただ、僕にはそれが運なのか、上手いだけではない何か別の要素なのかまではわかりませんでした。
二人の作家
以前、ある作家からブック(作品集)を見せて頂いたときの驚きと感動は未だに昨日のことのように覚えています。その圧巻の写真力はまるで絵画のように美しく神々しささえ覚えたものでした。
だからその時、僕は単純にこの作家は売れるだろうと思ったものです。いずれ何かの形で遠からず世間の評価を得る日が来るだろうと。
ただ、その作家のインスタは映えません。A2のプリントで見たあの感動がインスタからは何も感じられません。
過去に出展した写真展側からの縛りを忠実に守っているため、インスタに作品をあげることが出来ないと言うのは彼の弁です。その代わりに作品ではないただの記録画像を大量にあげています。だから、まったくもってつまらない。
当然、フォロワーはそれほど増えません。
写真展も僕には同様に見えました。仮に僕が作家の個人マネージャーなら僕はこうアドバイスします。
「チャンスをくれる可能性のある人は忙しいので、都心、山手線圏内の駅近5分以内でなければ写真展をやる意味はないと思います。ギャラリーのスペースは大きいに越したことはありませんが、少なくともその箱(空間)に溶け合い存分に使い切る見せ方を考えてはいかがでしょう。プリントのサイズは出来れば展示スペースの都合ではなく、作品のパワーに合わせたサイズで見せたいですよね。」
僕が知る別の写真作家は、作品やテーマだけでなく、話題性や露出の仕方まで考え計算しています。媒体が取材したくなる仕掛けを用意し、インタビューされた時には何をどう話すかというところまで考えていると思います。
当人はそんなことなーんにも考えていません風を装っていますが、彼の発信力は作品同様に雄弁なのです。
売れる男
フォトグラファーとして活躍中のN氏。その彼が先日スタジオに来た際に、最近の仕事のカットを見せてくれました。
「これ(この企画・この写真)は、担当の方から○○○な感じでお願いしますって言われたんですけど、それじゃーありきたりだし、つまらないんで、(あえて正解のための王道の撮り方ではなく)こうしたんですよ。そしたら(現場の)みなさんの評判も良くて、これでいきましょう!ってなったんですよね」
この春にスタジオを出たばかりのN氏ですが、すでにあちらこちらからの撮影依頼が絶えません。彼のフォトグラファーとしての快進撃は、撮る写真がカッコいいだけでなく、依頼主が求めるイメージを理解しながらも、その上を提案できるビジョンを持つからに違いありません。
エピローグ
「写真が上手い人が必ずしも売れるわけではない」
この言葉、僕のような素人にはこう言ってくれたほうがわかりやすいと思いました。
「写真が上手いだけで売れるわけではない」
作家だろうと、プロフェッショナルだろうと、撮り続けていくためには撮る視点とは別の視点も持っておくべきだと思うのです。