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厳しいスタジオ
グーグルで「外苑スタジオ」と入力すると、検索候補に「厳しい」というワードが出てきます。
たしかに甘くはないので厳しいスタジオなのだと思います。
ただし、一般の方がイメージする「厳しい」とは違う厳しさです。普通の人にはわかりにくいことだと思いますし、どうだっていい話だと思います。そういった方の興味を引くには「厳しい」=「ブラック」という論調で話すのが手っ取り早いのかもしれません。
以前面接に来られた写真の専門学校の生徒さんからお聞きした外苑スタジオのウワサには、僕もビックリしました。
「めちゃめちゃ緊張されてますけど(笑)、外苑スタジオがすごく怖いところだって聞いてきました?」
「・・・はい。」
「(笑)たとえば、どんな話?」
「・・・新入社員は全員、裏山の頂上に連れていかれ、一列に並んで発声練習をさせられると聞きました」
「裏山(笑)! ほかには?」
「先輩の言うことは絶対で、軍隊みたいなところだと聞きました・・・」
その面接に来られた方が、なぜそんなスタジオの面接を受けようと思ったのかはナゾです。僕だったら、そんなスタジオ選択肢の段階で速攻「問題外」です。
ただ、新宿区のほぼ真ん中にあるこのスタジオには裏山なんてありません。発声練習なんて近隣の方々のご迷惑になるようなこと、間違ってもできません。
先輩が絶対? スタジオワーク中に必要な指示ならまだしも、業務を離れてまで先輩風を吹かせているスタッフがいたら普通にみんなに嫌われます。このスタジオには、先輩風を吹かせることによるメリットは何もありません。
では、本当のところ、このスタジオの厳しさとはどういったものなのか?
それは例えばこういったことです。
- 「卒制を優先したために就活ができなかった」と言う方がいたとします。そのこと自体はまったく問題にしません。ただ、本人に「就活に対し前向きになれず、卒制に没頭することで就活を保留していた」という自覚があるのかどうかは、僕がすごく気になるところです。
- 「学校にいっていないため写真のことはまったくの素人です」と言う方がいたとします。写真を専門に学ぶ学校を出ていないことはまったく問題にしません。ただ、自分なりに写真のことは勉強していて謙遜して言っただけのことなのか、写真のことを何も知らない言い訳に学校へいっていないことを使っているのかは、はっきり知りたいところです。
- 「スタジオという環境がなかったために、ライティングのことはまったくわかりません」と言う方がいたとします。ライティングのことをわからないことは問題にしません。ただ、自分の部屋のカーテンを閉めて、手短な照明器具や懐中電灯を何かにあてて試行錯誤してみたことはあるのか、それとも本当のところはライティングに興味はなく自分への義務としてやらなければならないと思い込んでいるだけなのかは、白黒はっきりしておきたいことです。
僕が突っ込んで聞かずにいられないこれらのこと。せっかく自分の憧れの職業に就く夢に向かって頑張ろうと決めた人の中には、僕がその腰を折る意地悪なオッサンに映る人もいるかもしれません。
でも、「社会に飛び出す心の準備の出来ていない人」も、「学校に行かなければ写真は学べないと思い込んでいる人」も、「ライティングを学ぶべきだと自分に押し着せる人」も、そのポジションに留まっている限り何ものにもなれません。何ものにもならないなら、少なくとも今はまだそのタイミングではないから、いたずらに採用するべきではないと考えます。
それが、このスタジオが厳しいといわれるゆえんです。
ちなみに、こういった問答は入社後も続きます。
「え?ちょっと待って。」
先日も僕はお客様のいないスタジオでライトを組んでいたスタッフを呼び止めました。
「今、バウンス板(スタジオの機材)をそこに置いたけど、それはその位置で、その向きで、その開き方で良いと思って置いたの? それとも、それとなくその辺に置いておけば、誰かが正しく調整してくれるだろうと思って適当に置いたの?」
そのスタッフの答えが「これでいいと思った」のなら、僕は正しい位置と開き方をスタッフに説明します。
「適当に置いた」のなら、誰か任せでは自分のためにならないからリスクを負って責任取るべく「ここっ!」って考えた場所に置くようにと言います。その上で、恥や失敗はスタジオに居るうちに出し切っておくことの大切さを説きます。
そのうち外苑スタジオをググると、検索候補に「田辺ウザい」ってワードが出てくるようになりますよ、きっと。
文:田辺 政一 え:きよた ちひろ