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子供と大人
その1:ロケアシ
朝、スマホのバイブがブーブー言う音で目が覚めた。「なんだ?」と思い携帯を見ると見たことのない番号からの着信だった。「?」と思った瞬間、オレは「ヤバい!」と飛び起きた。
今日は早朝からのロケだった。時計を見ると、すでに集合時間を過ぎている。スマホの目覚ましを知らない間に消してしまったらしい。というか、なぜマナーモードになっているのかわからない。ただ、今はそんなことよりもロケをどうすればいいかが問題だ。
オレは混乱しながらも冷静になれと自分に言い聞かせながらこの状況の打開策を考え、今更ごまかしようがないことを悟った。ということは、まず何度か着信のあった今日のカメラマンに一報しなければならない。オレは正直に寝坊したことを伝え、謝罪すると同時にこの後の指示を仰いだ。
オレは怒られることを覚悟していたが、こちらが必死に謝ったことが良かったのか、カメラマンは意外とあっさり、「じゃーロケバスで先に現地に行っているから、電車で来て。」と言った。オレは急ぎ支度を整え、ロケ先に向かった。
電車を乗り継ぎ、やっとの思いで現場に着いたときにはすでに撮影が始まっていた。オレはカメラマンを見つけ、走っていって開口一番「すみません!」と謝った。そして、ロケ隊と合流してからのオレは、朝の遅刻を取り返すつもりでいつも以上に頑張った。人として当然のことだ。
そして、長かった撮影も無事終わり、カメラマンはオレに笑顔で「お疲れさん。」と言ってくれた。ロケバスでの解散間際には、カメラマンからすごく陽気な感じで「今日はありがとう。」と言ってもらえた。カメラマンの雰囲気からは、今朝の遅刻のことはもうそれ程気にしていないと感じる。
オレは今日の遅刻のことをスタジオに素直に報告すべきかどうか。マジに悩む。バカ正直に自分から怒られにいくか、それとも今日のカメラマンがスタジオに報告しないことに賭けるか。カメラマンのオレに対する別れ際の感じだと、スタジオには内緒にしておいても問題なさそうだ。
でも、万が一バレた時はマジにヤバい。
マジ悩む。
その2:カメラマン
カメラマンデビューして半年。これまでは、師匠から独立したお祝いのご祝儀仕事がほとんどだった。その意味で今日の撮影は初めて自分で取った仕事といえる。ギャラも悪くない。
今後もこの流れで仕事が増えていけば、オレもカメラマンとして充分やっていけると思う。だからこそ、今回の撮影はいつも以上に気合が入る。
と、同時に、これだけ大きな仕事をそれ程実績もないオレに任せてくれた今回のクライアントには感謝している。できれば今後も末永くお付き合いしていきたい。だから、普段は基本一人で動くことの多いオレだが、今日はなるべくシューティングだけに集中できるよう白ホリスタジオにロケアシをお願いした。
その頼んだはずのロケアシが、時間になっても集合場所に来ない。
オレは事前に聞いておいたロケアシの携帯に電話をした。が、出ない。何度か掛けても出ないので、スタジオに確認しようと思っていたとき、ロケアシ本人から電話がかかってきた。
いかにも寝起きの声だ。聞けば案の定、寝坊だと言う。何はともあれ、オレが頼んだアシスタントのためにみんなを待たせるわけにはいかないので、直接撮影現場に来てもらうことにし、ロケバスさんには出発してもらって構わないと伝えた。
ロケ現場では、アシスタントがいない以上、オレが撮影補助的作業をこなしながら撮るしかなかった。幸いロケバスさんが協力的な人だったのは有り難かった。自分の直アシを雇えるほどではない今のオレにとっては、これが限界なのだから仕方がない。この現状の中でベストを尽くすしかない。
そして一時間半後、撮影現場にロケアシが現れた。申し訳なさそうな顔つきで「すみません。」と言っている。
この期に及んで、このロケアシに文句を言ったところで何も良くなるわけではないし、こんなロケアシですら居ないより居てくれたほうが助かる。だから、とがめるつもりはない。ただ、クライアントを含め周りの人達がこのロケアシを「?」な顔で見ているのは気にならなくもない。
撮影終了。結果はどうあれオレ的にはベストを尽くした。後は後味良くサラッと現場を去りたい。オレはロクに仕事もできず、あげくに寝坊で遅刻してきたロケアシにも感謝の気持ちを伝える。
今日のロケアシ本人のためを思えば、本当はスタジオに遅刻のことを伝えて、叱ってもらったほうがいいのだろう。
ただ、今後もオレはスタジオにロケアシを依頼することがあるかもしれない。ここでクレームじみたことを言ってスタジオに煙たがられてしまうのは考えものだ。どうせ、スタジオの責任者は「すみません、すみません」の一点張りだろうし。
そんなことより、家には締め切り迫った大量のレタッチが残っている。済んでしまったことを考えるくらいなら、これからのことを考えよう。
いっそのこと直アシつけるか?
それとも一人でやっていくスタイルを貫くか?
マジ悩む。
(この物語はフィクションであり、実在する人物ㆍ団体とは一切関係がありません。)